本書は実体験に基づいたストーリーとして展開されたビジネス書といった感じです。
ちょうどわたしはイチゴの栽培も考えていたので検索して本書をみつけたわけですがなかなか読みごたえのある良書でした。
突然訪れた「99%の絶望」
著者は東日本大震災の体験を東京の三軒茶屋で体験します。
IT系の会社を経営していた著者はたまたま里帰り出産のため福島県郡山市の実家へ戻った奥様を見送ってから数時間後のことでした。
そして震災から3日後に故郷の宮城県亘理郡山元町に戻った著者は、目の前に広がる光景を見て衝撃を受けることになります。
山元町は農業界のみならず全国的に有名なイチゴの産地です。
そんな産地が一瞬にしてイチゴ農家129軒中122軒が壊滅することになったそうです。
しかしボランティアとしてさまざまな人たちと交流を重ねるなかで、それまでは経営者として「どれだけ儲かるのか」しか考えなかったという著者の意識が少しずつ変化していきます。
著者が気づいたのは、経営とは出発点が社会にどれだけ資するのかが重要でそこを起点にしか考えられない思うようになったわけです。
イチゴで復興
著者は突然、町の復興のために、本人はまったく経験のないイチゴ栽培をしようと思い立ちました。
山元町にイチゴ農家が多かったからではなく、イチゴの施設園芸の市場規模は1800円億円で、世界的にも消費が伸びていることや景気の影響を受けにくいこと。
そして日本人がいちばん好きなフルーツであるという点や国内外で大きな需要があり、世界中で強い「コンテンツ」として勝負できる部分も大きかったようです。
しかも山元町にはイチゴを生産してきた技と経験がありました。
これらの客観的な状況、数字を冷静に見極めたうえで、「儲かるビジネス」になるかどうかを判断したのだそうです。
生まれ故郷を完全に失った状況下だからこそ、残ったものを生かして冷静に判断した点が賞賛に値しますね。
かくしてイチゴ農家経験ゼロの著者は「わかる人に聞きまくる」ことを決意し、その過程で、重要なパートナーとなる「洋平ちゃん」と知り合い、彼の紹介で地元のイチゴの匠として知られる頑固な「イチゴバカ」こと「忠嗣ちゃん」とも出会います。ちなみ忠嗣ちゃんも震災で自身の畑を失っていた人でしたが、著者はこのとき、次のように提案します。
IT技術を駆使して最先端のイチゴ畑を作ろうと決意した著者と、何十年も続けてきたやり方を崩さない古くからのイチゴ農家との間では、当然のことながらいろいろなすれ違いが発生します。
このあたりの掛け合いはわたしが経営する農業生産法人でも経験があり、両方の言い分のバランスをとることの難しさがまるでそこにいるかのように気持ちに入ってきました。
苦労して掘った井戸から塩水しか出なかったり、「産業として大きくなりにくい仕組み」ができあがっているイチゴ農業の現状に立ちふさがられたり、2億円もの借金をすることになったりと、問題は収まる気配はありません。
2億円って・・・ここまでいく心の強さはすっかり敬服いたしました。
そんな著者は最終的に大成功して、「ミガキイチゴ」と名づけた山元町のイチゴは、新宿伊勢丹でひと粒1000円の値をつけるまでになります。
さらにはインドにも進出し、いまなお成長を続けているそうです。
当たり前のことですが『やるかやらないか』の時点で、勝負の99%は決まる」と断言する著者の方法論は説得力があります。
「99%の絶望の中に、1%のチャンスは実る」
この言葉に勇気づけられますね。
そんな著者は、震災を乗り越えてきた末にミガキイチゴを成功させてもなお歩みを止めていません。
今はサウジアラビアへの進出に伴う苦難の渦中にいます。
大いに刺激を受ける一冊です。
農家の人もそうじゃないビジネスパーソンにも是非、お読みいただきたい一冊です。