EVMが登場した経緯からも分かるように、当初、EVMは財務面から見たプロジェクト進捗の評価法とみなされていました。
第三者が財務面からプロジェクトを評価する技法として利用され、プロジェクト現場の進捗管理に使われることはなかったのです。
プロジェクトを脇で眺めているコンサルタントが、プロジェクトを財務面から評価して指導するための道具でした。
EVMの単位は「ドル」や「円」で表される「金額」です。
プロジェクトの現場にしてみれば「1000万円遅れている」という言い方をされても実感は湧かないはずで、進捗管理に利用されなかったのも無理はありません。
このような理由で、一時は「EVMはプロジェクト現場では使い物にならない」という評価が下されました。
1960年代に米国で登場したEVMの使用は、下火になりました。
しかし、EVMに代わるものは結局出てきませんでした。
長い年月はかかったが徐々にプロジェクトの現場で使われ始め、1990年代に入ってからはその効果が広く認識されるようになりました。
先に述べた1993年のクリントン政権の国家戦略も、それを後押ししました。
EVMの概念
この節ではEVMの概念を詳しく説明します。
EVMの計算式が分かり、そこで出てくる値の意味付けが明確になれば、おのずとEVMの使い方は理解できるでしょう。
EVMの概念と計算式
EVMの概念をまとめます。
グラフはEVMの説明によく使用されるもので、まずこれを理解することから始めましょう。
このグラフは縦軸にコストを、横軸に時間軸を取っています。
「現時点」と表記しているところが、この図の今を表しています。
縦軸が「コスト」となっていることから、EVMが「コスト」を単位にしているのが分かります。
作業の開始から終了まで、「習熟曲線(S字カーブ)」で伸びている線を、コスト・ベースラインと呼びます。
これは、作業(プロジェクト用語ではアクティビティ)の予定コストを、スケジュールに従ってコスト計上基準で積み上げたものです。
コスト・ベースラインの現在値、PV(出来高計画値)が現時点までに作成されるべき数値で、直近の目標値です。
S字カーブの線の右端は計画コストの合計で、BAC(完了までの当初予算)になります。
現時点までに完了した作業を、その予定コストで計上したものがEV(出来高実績値)です。
EVは作業の「予定コスト」を計上したものであり、「実コスト」ではないことに、注意してください。
AC(コスト実績値)は、EVを実現するために投入された実コストです。
この3つの数値、PV、EV、ACをプロジェクト現場では把握します。
その他の数値はEVMの計算式から算出します。
計算式は計画値であるPVと実績のEVの差を、SV(スケジュール差異)と呼びます。
SVはスケジュール上の乖離を示し、0なら「予定通り」、マイナスなら「遅延」を意味します。
PVとACの差がCV(コスト差異)で、EVを実現するための計画コストとの差を示します。
この数値がマイナスならコスト超過になっています。
EVをPVで割ったものがSPI(スケジュール効率指数)で、成果物作成の進捗を表します。
EVをACで割ったものが、CPI(コスト効率指数)です。
現在までの開発生産性が今後も維持するなら、すなわちSPIとCPIの値が維持されていくなら、残りのコストを示すETC(残作業コスト予測)は、残コスト(BAC-EV)を(SPI×CPI)で割って求めることができます(CPIだけで割ることもあります)。
現時点のEAC(完成時コスト予測)は、(AC+ETC)となります。
VAC(完成時コスト差異)は、(BAC-EAC)である。このVACがマイナスなら、今の作業が終了した時点では、コスト超過になると予測されていることになります。
ここで、いくつか注目してほしい点があります。
まず、EVMの評価軸はコスト・ベースラインであり、完成時の計画値BACと現時点の計画値PVがないと、先に進むことはできません。
次に、EVは予定コストを計上したもので、実コストではないのです。
コスト・ベースラインで進捗を評価するとき、完成した作業の「予定コスト」を集計して、ベースラインとの乖離を見れば分かるからです。
最後に、EVMではどの時点でも、VACが行動の指針になることに注目してください。
将来を予測して対応策を決定するには、常にこのVACが必須なのです。
以上、計算式だけを駆け足で紹介しましたが、これだけではEVMを理解するのは困難でしょう。
ここから先は、実際の例を見ながら詳細を説明することにしたいと思います。