それではここから実際の事例からサツマイモ農家におけるコスト分析を行っていきたいと思います。
サツマイモ農家 事例の特徴
(1) 対象事例の概要
A複合経営では、経営主の就農した昭和50年当時から、サツマイモの他、落花生、陸稲、麦などによる複合経営を行っていました。
現在は、サツマイモを中心に、加工バレイショおよびダイコン、他に緑肥を作付する複合経営です。
労働力は家族3人、常時雇用2人である。カンショ収穫機、重量選別機、貯蔵庫を保有します。
次にB単一経営ですが、経営主の就農した昭和50年当時はスイカを中心にサツマイモを組み合わせた経営を行っていました。
その後スイカを中止し、サツマイモと陸稲中心の経営を経て、サツマイモ専作となった大規模雇用型経営です。
労働力は家族2人、常時雇用2人、他に臨時雇用を多数導入しています。
サツマイモ収穫機、貯蔵庫を保有します。
(2)定植・防除作業における機械化の特徴
両経営ともそれぞれの3台のトラクタを保有しており、耕耘、施肥等の作業では中~大型トラクタを利用します。
畦立作業には枕地での旋回操縦性や作畦幅を考え小型トラクタ+施肥消毒同時マルチャーを利用しています。
作業は基本的に2人組で進められる場合が多いが、労力の関係上オペレーター1名で行う場合も少なくありません。
機械作業に関しては主として男性が従事しています。
定植作業は人力による、10a当たり作業時間は4h程度になり、中腰での作業が続き作業者への労働負担が大きいです。
(3)収穫作業における機械化の特徴
A、B経営の収穫および出荷作業の特徴は作業組人数の違いです。
収穫作業時にA複合経営では収穫機、トラックに共通したオペレーターが1人であるのに対し、B単一経営では収穫機と搬送するトラックのオペレーターがそれぞれおり、収穫と搬送する作業を並行して進めることが可能です。
組作業は、1日当たりの予定作業量や圃場条件とも関連します。
つまり、収穫機のオペレーターも兼ね、遠距離圃場の多いA複合経営では、トラックの回送を最小に抑えたいため、1回の運搬で済む作業量が1日の作業単位となっています。
一方、B単一経営では圃場が自宅周辺にまとまり、オペレーターもそれぞれ独立して作業していることから、トラックでの運搬が収穫作業の制約になることが少ないのです。
(4)選別・調製作業における機械化の特徴
選別調製作業を家族労働のみによって行っていたA経営の場合には、作業時期の雇用確保が困難であったために早くから機械化を検討してこられました。
一方、人力による選別作業のB経営は10a当り労働時間で47hを要し、重量選別機を導入しているA経営の27hに対し約1.7倍の時間を費やします。
サツマイモの重さと形状および外観を、瞬時に判断し選別する必要のある人力選別は、いわば特殊な経験が必要となります。
そのため、B単一経営では雇用歴が長く経験豊富な雇用労働力に担当させています。
B単一経営がこうした制約がある人力選別について、あえて機械化を考えていないのは、以下のような背景があります。
① 作業能率を上げ出荷期間を短期化させると、雇用労力の活用など年間労働体系が崩れる
② 市場出荷のため一定量を長期間出荷する必要がある
③ 作業経験者である労働力の確保が比較的容易である
(5)定植作業における機械化の効果
以下のようなサツマイモ作業において、両経営は機械化が困難な春作業を過重労働と捉えています。
種イモやウイルスフリー苗から増殖させた後の採苗作業については、現在のところ人力に頼らざるを得ない状態です。
一方、定植作業については専用機械が開発され市販されています。
現在のところ普及台数はまだ少ないものの、今後、普及の可能性は高いでしょう。
そこで、サツマイモ定植(挿苗)機の経済性についてみてみましょう。
サツマイモ定植機(K式PS1)と人力との定植作業を比較した両者の損益分岐点は7.9haです。
規模からすればB単一経営における導入は採算が合うのですが、この値はあくまで定植機1台での作業を前提にした試算です。
実際の営農現場では育苗の状態や気象などから定植日数が限定され、適期作業が必要になります。
このため、大規模経営になるほど定植機のみでは作業が間に合わなくなり、人力による作業を組み合わせていく必要があります。
なお、定植機をA複合経営に導入して作付面積の半分の2.6haに利用した場合、10a当り機械利用経費は11,906円、その時の時間当り利用経費は4,100円となります。
さらに全作付面積の5.1haで利用した場合、それぞれ6,142円、2,100円と低減します。